ツカツカツカツカツカ
「お待ちなさいッ」
スタスタスタスタスタ
「…」
ツカツカツカツカツカ
「私と勝負しなさいッ」
スタスタスタスタスタ
「…」
ツカツカツカツカツカ
「聞こえないんですかッ!? 止まりなさいッ!!」
スタスタスタスタスタ
「…」
ヅカヅカヅカヅカヅカ
「いい加減に止まりなさいッ!!」
スッタスッタスッタスッタスッタ
「…うるせー…」
ヅカヅカヅカヅカヅカ…
スッタスッタスッタスッタスッタ…
………
……


いつものように立ち寄った島で、いつものように物資を補給し、いつものように一杯飲った帰り、いつものように迷っていたら、いつものようにバッタリ鉢合わせ。
いつもいつも、なんでコイツを見つけてしまうのかと己が運命を呪いつつ、いつものようにUターン。
せっかくイイ酒も飲めたのに、結局始まる逃亡劇。
海軍に見つかった剣士は、周囲にぶつかることもなくサッとその場を離れ、周りに迷惑がかからないように人気のない方に逃亡開始。
さっさと逃げてしまおうと、母船を目指して歩き出す。が、しつこい追っ手を撒こうとドンドン逃げると、いつのまにやら山の中。
しゃーねー、こーなったらと、山道を逸れて木立の中にズンズン突き進む。ケモノ道ですらない道なき道を、無理無理進んでいくことで、なんとか追っ手の気配を撒くことは出来た。

いつものように立ち寄った島で、いつものように駐在と繋ぎをとり、いつものように空き時間で刀剣屋巡りをしていたら、いつものようにバッタリ鉢合わせ。
今日こそは、と、抜刀しつつ挑みかかるが帯同の軍曹に制止され、その隙にさっさと逃げられる。
せっかく見つけたのだからと、早速始まる追跡劇。
海賊を見つけた曹長は、発見の報と自分が追跡する旨の連絡を部下に頼みつつ、周囲にぶつかりながらも追跡開始。
捕縛より何より、まずは勝負して欲しい。なのに、ひたすらこっちを無視し、制止も聞かずに山の中。
山道まで追い続けてきたら、いきなり道を逸れ、木立の中に逃げ込んでいく。逃がすわけにはいかないと、必死の思いで追い続けるが、悪い足場で何度かこけて、その間にすっかり見失しなう。


「ドコですかッ! ロロノアッ! さっさと出てきて、勝負しなさいッ!?」
ドタッ
「いったぁ~… ちょ、ちょっと、捻っちゃいましたね… 歩けなくはないですが… って、アレ? いつの間にこんなに昏く?」
ゾロを追ううちにいつの間にか日は陰り、視界が悪くなってきた状況では足下の根っこに気付けるはずもなく、コレまでよりもより盛大に思いっきりすっ転でしまう。
既にサッパリゾロの気配は感じられず、ふと見れば周りもだいぶ昏くなっている。そのうえ、変なコケ方をした所為で右足をくじいてしまった。やむなく引き返そうとするが、自分がドコにいるやらサッパリ分からない。
「え、えーと… 向こうから来たんですから、来た途を戻ればもとの山道まで出られますよね。」
と、来た途を引き返してみるが、そもそもまともな方向感覚もない上に辺りはだんだん暗くなってくるワケで、当然迷子に。
それでもなんとか痛む足を庇いながら、より一層悪くなった視界で立木にぶつかり段差に転び、体中に擦り傷・切り傷・打ち身を作りつつ、なんとか道をなしている山道まで辿り着く。
「ふう、やっと道が見つかりました。良かったです… やっと戻れそうでッ!?」
バタッ
「イッたたたた… ううう… またやっちゃいました…」
山道に辿り着けた安堵感から、足下がお留守なままに駆けだしたものだから、今度は左足を思いっきりくじいてしまった。
せっかく道まで辿り着けたが、すっかり陽も落ち、鬱蒼と茂る木々に阻まれて、どっちに街があるのかも分からないような状況。更に両の足首からは、痛みと熱が「ジンジン」と自己主張し始める始末。
「うーん、困りました… せっかくココまで出られましたのに、両足がコレでは無理は出来ませんねぇ… ふうッ、仕方ありませんッ。今日はここで野営です。」
両足首は痛むモノの、まだ歩けなくはないので、なんとか手近な小枝を集めて火をおこす。
「…なんとかコレで人心地つきましたね。それにしても、この足…」
これ以上ヘタに動けないということで野営の準備はしたモノの、両足の痛みはまだ退く気配すらない。
「うーん… 明日になれば、多少は回復する、かな? しますよね、きっと… ふ、ふぁあ~…」
軍靴を脱ぎ、靴下も脱いで足首の状態を確認する。多少腫れてはいるが、明日には回復するだろうと決め込み、ふう、と一息。が、ココで気が抜けてしまって、急に眠気が襲ってきた。
「…ふぁ、あふぅ、ネ、ネムイです… 取り敢えず今日は、もう休みましょう… すぅ…」


「うんー… 痛ぁ…」
たしぎはすっかり寝入ってしまったのだが、足の痛みか、ケガの熱か、そのノドからはくぐもったうめき声をあげ、その体は少し汗ばんでしまっている。そのかすかな声と匂いに誘われてか、辺りの野獣がが少しずつ集まり始めた。
「お、焚き火か? ありゃあ?」
それにつられてでもなかろうが、さんざん迷ったあげくになんとか山道まで辿り着けた魔獣君も、遠くに薄ぼんやりと光る灯りに誘われて、焚き火の近くまでやってくる。近づくにつれ、ソコにダレが居るのかの判別がつくと
(げっ!? パクリ女か?)
と、その場から離れようとするも、かすかなうめき声を耳にする。
どうかしたのかと訝しみ、そっと近づいていくと、寝入ってはいる様だが、どうもうなされてもいるらしいことが分かる。
(…うなされてんのか? …し、知るかっ! こっちゃあ、とっとと戻んなきゃなんねーんだよッ)
うなされていることに気付きつつも、先を急ぐと放って行こうとする。が、苦しげなうめき声がくいなやナミを想起させ、両足はその場に縫いつけられる。
「クッ… ふうッ…」
「だぁっ、くそぉっ!!」
暫く逡巡していたが、根本的に「イイ人」な魔獣君はうめき声に手を引かれ、悪態を吐きながらも様子を確認するために近づいていく。すると、焚き火はどうやら消えかけており、更に、自分以外の獣気が周囲から漂ってきている。
「チッ…」
状況を察し、舌打ち一つ。手近な枯れ木を伐採し、適当に薪を確保しながら、横になっている人影のもとへ歩を進める。
焚き火をはさんだ向かい側に腰を下ろし、持ってきた薪を残り火にくべ、火勢を取り戻しつつ改めて目の前で横になっているその様子をうかがう。
よくよく見ると、横になって仮眠をとっているというよりは、腰を下ろしていたのがそのまま横倒しになってしまったというような感じ。更に、なんだか良く分からんが顔には細かい擦り傷があり、ジャケットやパンツもずいぶんと砂や泥で汚れている様子。
ゾロの気配に気付いたのか、寝苦しそうに身じろぎした時、今更ながらにたしぎが軍靴も靴下も脱いでいるのに気がついた。
何してんだ? と、注視すると、どうやら両足首とも腫れ上がっている様子。
「ああ、足をくじいてたのか、それで。 …コイツらしいというか、どーせまた、盛大にこけまくったんだろーよ()」
自分を基準として考えているものだから、その程度ほっとけ、ということで納得してしまう。

納得もいったところで自分も仮眠を取るかと、近くの立木に寄りかかる。目をつむり、さあ寝ようかと思ったのだが、近くから聞こえる「うめき混じりのか細い寝息」がやたらと気に掛かり、なかなか寝付くことが出来なかったりする。
(ちくしょー、ウルサくて眠れやしねー。 …仕方ねー、チョッパーに持たされてたこの軟膏でも…)
多少のことでは目を覚ますことなく、どんなにウルサくても平気で寝付けるような図太い神経のゾロであるが、今日に限って妙に神経が冴えてしまっていた。そこで、「コレは安眠確保の為なんだ」と理由付けをしながら、治療をすることに。
近くによって、改めてよく見ると、全身あちこち泥や草ジミだらけでずいぶん薄汚れている。膝や手袋やらもずいぶんドロドロになっていて、いかにも「こけまくりました」という体である。なんだかなぁと思いつつ、そっとその両足首を確認する。
「…ずいぶん熱もってんな、どんだけ無理してんだよ、コイツ…」
腫れ物に触るように(実際腫れているのだが)、そっと優しくその手で触れ、取り敢えずは捻挫だけであり骨にまでは損傷がないことを確認しつつ、チョッパー印の万能軟膏を取り出す。
普段から持たされてはいるモノの、今まで一度も使ったこともないのでどのくらい使えばいいのかの見当もつかない。取り敢えず指先にとって腫れている部位にまんべんなく塗りつけてみる。
ちょっと力を入れただけで「うっ」とか「あっ」とか呻くものだから、今までないくらい、優しく優しく、薄刃を扱うかの如くゆっくりと塗り込めていく。

(骨の造りは華奢だけど筋肉はちゃんと付いてるなぁ)とか、(ふくらはぎ、すっげー柔らかけー)とか、(お、微妙に巻き爪だなコイツ)とか、そんなどーでも良いようなことを考えながら一通り塗り終えた頃には、腫れは退かないまでも、呼吸はだいぶ楽になった様子。
念のためということで、全身隈無く、他にケガしてる場所はないかとまさぐってみる。
改めてその体に触れて気付かされたが、その全身は本当に良く鍛えられており、余分な贅肉はもちろん、無駄な筋肉すらもそぎ落とされた「美しい身体」をしていることに感心する。
「女だからって手を抜くなとかなんとか、ギャンギャン騒ぐだけのことはあるワケか…」
ところが、そのあまりにも心地よい触り心地に、調子にのって色々と触りまくってると、だんだん妙な気分に…
「と、取り敢えず、他には大したケガはないようだな。ウム。」
慌てて手を引く。
打ち身くらいはあるかもしれないが、取り敢えず出血や骨折の類はないようなので、一安心。改めて寝る体勢に入る。
たしぎの呼吸も落ち着いているので今度こそすぐに寝られるかと思ったが、しかし、さっきまでの感触は手に残っているわ、安心しきったかのような整った寝息が妙に意識されるわで、かえって目が冴えてしまって、結局なかなか寝付けないことになる。
「…いくらなんでも、油断しすぎだろ、オイッ…」

日も昇りはじめたところで、ゆっくりとたしぎが覚醒。
「いけない、寝ちゃいました。」
とか言いつつ、「んぅーっ」、と伸びながら起きあがる。
焚き火の始末をしようと立ち上がろうとしたところで、両足首に鈍痛を覚えた。
ああ、そういえば足をケガしていたんだと思い出し、両足首を確認すると、なぜだか軟膏のようなモノが塗ってあり、無理すれば歩けなくもないくらいまでに痛みも和らいでいた。
「え? な、なんで?」
戸惑いから半ばパニックに陥ったその耳に、なんだかいびきのような音が聞こえてくる。その音でやっと傍に誰か居るのに気付き、周りを見回したら、少し離れた立木に寄りかかって寝ているゾロを目視確認。
「ロ、ロロノアぁ!?」
と、素っ頓狂な声を上げ、慌てて両手で自分の口を塞ぐ。
対して、悶々としつつ夜明け前にやっとで寝入ったゾロ。ただでさえ滅多なことで目を覚まさない男、当然ながらその程度の声で起きたりする訳もなく、ガーガーと高いびきで引き続き爆睡中。
更なるパニックに陥りつつも、そういえば、ロロノアを追いかけていたんだと思いだし、よく見れば焚き火の周りに薪が沢山あることに気付き、この薪はロロノアが用意してくれたものなのか、ひょっとしてこのケガもロロノアが治療してくれたのか、と思い至る。
しばらく「なんで? なんで?」とパニクっていたが、
(そうだ、捕まえなきゃ。)
とか、はたと気付く。
しかし、その前に勝負してから、とか考えたり、イヤイヤ、ココは先ず捕縛しなくては、とか考えるも、寝込みを襲うのは卑怯だとか、海賊なんだから手加減無用と思いつつも、ひょっとしたら自分を治療してくれたのかもしれない相手を捕まえるのは道義に反するのではとか、色々と考え込んでしまう。
仕方なく、起きるのを待って話を聞いて、それからだ、と、納得したことにする。


そのまま数時間。とっくに昼もまわったのだが、ゾロは未だ起きようという気配すらない。
最初のうちは(目を閉じてると、意外と可愛いですね)とか、(敵が目の前にいるのによく平気で寝てられますね)とか、(あ、まつげ長い)とか、ゾロを観察して暇をつぶしていたのだが、流石に待ちくたびれたので起こしにかかる。が、声をかけても揺さぶっても、全然起きない。
(つか、どつくとか蹴飛ばすとか、それくらいしないと起きません)
当然、
「うーん…」
と、なってしまって、でもいい加減起きてもらわないとと思いつつ、困り果てることに。
「あ、ひょっとしたら…」

チキッ

ロロノアくらいになれば、剣気には敏感かも知れないと思い、殺気を込めて鯉口を切る。
すると、ゾロは即座に目を見開き、和道一文字を手にたしぎを睨め付ける。
「ああ、やっとおきましたね。」
「…んあぁ、おはようさん」
ゾロが目覚めたのを確認し、時雨を納めながらたしぎがにこやかに声をかけると、ゾロは刀からスッと手を放し、極普通に挨拶を返す。
それどころか、
「足、大丈夫か?」
と、心配の声まで掛けてくる。
「まだちっと腫れてんなぁ…」
たしぎはあまりに自然なやり取りに呆気にとられていると、ゾロはたしぎに近づき両足の状態を確かめる。
「な、なに勝手に触ってるんですかぁ!? ////
やっと気付いたたしぎは、慌てて後退る。
ゾロの方はニヤリとしつつ、
「フン、体力は回復したみてーだな。」
と、暢気に返す。
「あ、あ、あなた、なんでそんなところに居るんですか? まさ、まさか、私が寝ている間に、変なことをしたんじゃないでしょうねッ? ////
一方、たしぎは真っ赤になったままで、半ばパニックになりながらやっと状況を確認しだす。
「はんっ、誰がテメーなんぞにんな事… ああ、したと言えばしたかもな(ニヤリ)」
「ロロノアぁー!! /////
たしぎは一気に時雨を抜き放ち、その切っ先をゾロに向ける。
「な、何か ////、その、何かをされていたとしても、それは私の油断の所為ですッ!! ですが、私は海軍である以上、海賊であるあなたを捕らえますッ!! 抜きなさイッ!! 勝負ですッ!!!」
「…ほう、敵のケガを治療するのは、そんなに変なことなのかよ?」
「えっ? あぁっ!? コレ、やっぱりあなたが処置したのですか?」
「他に誰がやんだよ? んな事より、いきなり立ったりして平気なのかよ?」
「へ、平気ですよ。このくらいの捻挫なんかすぐッ!?」
一気に立ち上がって両足の裾を引き上げ、治療のことを問い質すも、無理がたたって激痛が走り、その痛みに膝から砕けて後ろにひっくり返りそうになる。
「っと、言わんこっちゃねー…」
ゾロは、後ろにひっくり返りそうになったたしぎを、腰を抱くように素早く支える。
「あの、あの、だイッ丈夫ですッから、その、放して… ////
彼我の体勢に焦ったたしぎは、手を放すように訴える。
「ああ、いいぜ。」
「ッ!? ひゃあっ!?」
その訴えを聞き入れたゾロは、傾いだたしぎの腰からその体勢のまま手を放す。当然、踏ん張ることも出来ず、またゾロの腕の中に戻る。
「なんだ、一人で立てねーのかよ?」
「いきなり放さなくても良いじゃないですかッ!!」
「なんだ、離れたくなかったのか?」
「そッ、そういうことではありませんッ! /////
ゾロに遊ばれていることに気付いたたしぎは、ゾロを押しやり踏ん張って、なんとか一人で立ってみせるが、その全身は硬直し、やっとで立っているという感じでしかない。
「だあー、もーいーから、座れ。 …んで、なんで「回収」しなかったんだ?」
「…えッ?」
「俺が寝てる間にコイツ等を「回収」出来たろうがよ。なんでそうしなかった?」
「私は海軍です。そんな寝込みを襲うようなマネ、出来ませんッ」
「なるほどねぇ…」
「そういうあなたこそ、どうしてこんな…」
「ああ? 知るかよッ! たまたま山道を歩いてたらたまたま焚き火があって、たまたま近寄ってみたらたまたまうなされてるヤツが居て、たまたまココで寝ようとしたらたまたまうなされてる声が耳について、たまたま手元にあった軟膏をたまたま塗ってやっただけだッ! そんだけだッ!」
「たまたま、ですか…」
「そうだ、たまたまだ。そういうことにしとけ。 ////
「はぁ…」
微妙に赤くなったゾロを訝しみながらも、取り敢えずそういうことにしておくことにした。
「で?」
「はい?」
「…今日はいつもみたいに騒がねーのか? 「勝負」しろとかってよ?」
「あぁ、ソレは、その… それより先にこの足の治療をして頂いたのかを確認しようと思って… それに、助けて頂いたのであれば、えと、不本意ではありますが、今回だけは見逃して差し上げないと…」
「フン、ずいぶん甘いもんだ。」
「うッ… それは、分かってますけど…」
「ヘッ、まあいい。で、これからどうすんだ? いい加減戻んねーと、煙野郎が心配すんゼ?」
「…」
「ん? どした?」
「イエ、なんだかずいぶん優しいんでちょっと意外というか…」
「バッ!//// なに言ってやがんだテメー! だ、だいたい、けが人に気を使うのは当たり前じゃねーかッ!!」
「それは、そう、ですけど。やっぱり変です。あなたは海賊なのに。」
「うるせー。テメーこそ海軍のくせに、ずいぶんとひねくれてんじゃねーか。」
「んなっ!? 私はひねくれてなんかいませんッ!! あなたが変なんですッ!! やっぱり信用出来ませんッ!!! 私が寝ている間に何かしたんじゃないですかッ!?」
「バッ!//// べ、別に大したことッ! じゃねー、なんもしてねーッて!」
「あっ!? い、今、どもりましたね? 何をしたんですかッ?」
「だから、なんにもしてねーよッ!! 治療する時ちょっと足を触っただけだッ!!」
「…それだけですか? ホントに?」
「当たり前だろーがッ!! 誰がテメーみたいな男女にッ…」
「ッ?!」
「あ、あー、なんだ、その… 別に妙な事はしてねーから、よぉ…」
「…はい…」
「で、どうすんだよ、これから。」
「そう、ですね。いい加減戻らないと、流石にマズイです。」
「おお…」
「…あッ! そうでした。まだお礼を言ってませんでしたね。」
「ああ?」
「あの、足の治療、有り難う御座いました。だいぶ楽になりましたのでもう平気です。あとからゆっくり戻りますので、ロロノアは先に行って下さい。今日の処は見逃して差し上げますので。」
「ほう… もう直ったッてか? じゃあ、一人で立ってみせろよ。」
「え?」
「だから、足が直ったッてんなら、今ココで、自力で立ってみせろって。」
「べ、別に平気ですよ。だから先に行って下さいッて…」
「あのなー、せっかく治療したのに、ちゃんと直ってないのを無理して悪化でもされたらこっちが迷惑だってんだよ。」
「…」
「オラッ。立てるのか?」
「… クッ… はぁッ ふう …はい、立ちましたよ?」
「…」
「ご覧の通り平気ですから、先に行って下さい。これ以上、海賊の世話にはなりませんッ」
「…脂汗垂らしながら言う台詞じゃねーな。」
「ううッ… ////
「しゃーねーな。」
「な、なんですか??」
「ホレ、コレ持て。」
「エッ!? コ、コレはあなたの大事な刀でしょう? どうしていきなり渡そうとするんですか??」
「ん? バカ、ちげーよッ! 邪魔だから一時的に持ってろってだけだ。いいからつべこべ言わずに持て。」
「はぁ…」
「あー、こっちも、ホレ。」
「はい…」
「ちゃんと握ってろよ?」
「それは良いんですが、いったい何を?? ッ!? ひゃあッ!??」
押し問答もめんどくせーし、放っておくワケにもいかねーし。ということで、ゾロはたしぎに三刀と時雨を持たせ、ヒザ裏と背中に腕を回して抱き上げた。
いわゆる「お姫様抱っこ」だ。
「お、意外といいトレーニングになるな、コリャ。」
ちなみにお姫様抱っこは、抱かれている側が首に腕を回すなどの協力をしない場合、もの凄い負荷が腕にかかります。
「ひゃっ… んなぁ、何をするんですかッ!? 放してッ下さいッ!! /////
「オイオイ、暴れるなよ。」
「何をッ!? は、早く、降ろして下さいッ!! /////
「あぁ~、うるせー。暴れたら落とすだろうが。」
グイッ
「ちったぁおとなしくしてろ。」
「なにチカラを入れ直してるんですかッ!? イイから放しなさいッ!! /////
「けが人は騒ぐな。」
「ケガなんかしてませんッ!! いい加減降ろしなさいッ!!! //////
「ウソ吐くな、さっきまともに立てなかったじゃねーか。」
「ちゃっ、ちゃんと立って見せたじゃないですかっ!! /////
「脂汗浮かべながらな。(ニヤリ)」
「うッ… //////
「イイからおとなしくしてろ。ケガしてるヤツにどうこうしようという気はねーし。」
「… /////
「どうせ誰も見てねーんだ。恥ずかしいッてんなら、街に着く前に降ろしてやるよ。」
「わ、分かりました。では、ま、街までお願いします… /////
「おうッ、いいコにしてろよ?」
「むー… /////


取り敢えず町まで出なくては、ということで、たしぎを抱いたままゾロは山道を歩き続けた。すると、奇跡的にすんなりと町並みが見え始める。
ザカザカザカザカ
「オイ、街が見えてきたぜ。」
「…」
ザカザカザカザカ
「ん、どした?」
「…」
ザッ…
「…ね、寝てやがる() 結構大物だな、こいつ…」
「…」
「しゃーねー、起こすのもなんだし、このまま行っちまうか。 …って、なんだ?」
そーちょー、たしぎそーちょー。どこにおられますかぁ~
たしぎそーちょー、いたらへんじしてくださいぃ~
(…海軍の連中か。こいつを探しに来たのか… このまま見つかるのはマズイな…)
「…」
(とはいえ、ココに置き去りにするのもあんまりだし…)
「って、起こしゃイイのか。」
ゆさゆさ
「オイ、オイコラ、起きろよ。」
ゆさゆさ
「起きれッてんだ、コラ。」
ゆっさゆっさ
「起きねーと、妙なコトするぞテメー。」
ゆっさゆっさゆっさ
「い、いい加減にッ… あ? なんだ、うなされてんのか? コイツ?」
少しうなされているようなので、たしぎをゆっくりと木陰に降ろす。
「…少し、汗ばんでる、な。」
サッと軍靴を脱がせて、足首を確認すると…
(…チッ、やっぱりか。無茶すっからだ… しゃーねー。もう一度塗ってやるか。)
ぬりぬり

「…フー、落ち着いたみてーだな…」
(さあって、これからどうするか… ッ!?)
そーちょー、たしぎそーちょ~
(チッ、だいぶ近づいてきたか…)
「オイッ、起きろ。」
ペシペシ
「起きろよ、オイッ。」
ペシペシ
「いい加減に起きねーと、どうにかするぞ、コラ。」
ムニムニ
「…コレでもダメかよ…」

ムニムニムニ
「んん?… んぁッ?」
「って、何してんだよッ、オイッ」
(いくらなんでも、寝込みを襲うのはダメだろッ! てか、治まれ、オメーもッ!!)
だんだんと近づいてくる山狩りの気配。
「…まあ、いいか。こんだけ寄ってくりゃあ、すぐに見つけてもらえんだろ…」
一度抱き上げ、そばの立木に寄りかからせるようにして楽な姿勢で座らせる。
軍靴を手元に置き、刀を取…
「…コイツ…」
…れない。たしぎはしっかりと握り込んで刀を放さない。
「ったく、ちゃんと握ってろたぁ言ったけど、限度ってモンがあろうがッ!?」
グイグイ引っ張るが、放さない。
「クソッ! すぐソコまで来てんのに。なにが見逃してやるだよッ んの、放せって。」
仕方なく指を一本ずつ引き剥がしていく。
「コノッ… 意外と握力がありやがるッ… ッしゃ、取れた。 …もうだいぶ近いな。コレならすぐに見つかるだろ。」
「んん、返して下さい…」
「あ? ふざけんなッ、コイツは元々俺んだッ! …って、寝言かよ。」
「かえ して 私の 時雨…」
「あ゛… す、すまねー。コレはオマエのか。」
一緒に抜き取ってしまった時雨を、虚空をさまよっているたしぎの手に戻してやる。
「有り難う御座います…」
「…実は起きてんじゃねーのか? って、マズイッ! じゃ、またな。次までにはちゃんと直しておけよ。」
最後に一つ言葉をかけ、ゾロは海軍が迫りつつある山道を避けて森の奥に歩を進めた。


「そーちょー、そー、曹長!? 居たッ! 居ましたぁッ! 軍曹どの~! たしぎ曹長を発見しましたぁ~!」
「なにッ!? 居たかッ! 今行くッ! 近くにあの男が居ないか、警戒を怠るなっ!!」
「了解しましたッ!!」
ドタダダダタッ ザッ
「はあはあ、曹長、ご無事で、何より… 曹長? 曹長殿!? ま、まさかッ!? 曹長殿!? 曹長殿ッ!!」
「ウッ…」
「曹長殿ッ、しっかりして下さいッ!!」
「んぅ、なんですか? ろろのあぁ?」
「ッ!? ロロ… お、お気を確かにッ! 曹長殿ッ! ヤツに何かッ!?」
「んー …アレ? 軍曹さん?? あっ!? ス、スモーカーさんがお呼びですかッ!?」
「あ、イエ、大丈夫です。お戻りになるのがあまりに遅いものですから、探しに来たのですよ。それより、大丈夫ですか? あの男に何かされたりしませんでしたか?」
「え? あ… ////// だ、大丈夫ですッ なんにもありませんッ!!」
「曹長殿?」
「大丈夫です。ハイ。 ////
「それなら、いいのですが…」
「そんなことより、たしぎ? あなた、足をケガしてるわね?」
「エッ!?」
「あっ、コレはヒナ嬢。ご苦労様です。たしぎ曹長、無事発見いたしました。」
「そのようね。安心したわ。ヒナ安心。」
「ヒナさん… どうしたんですか? こんなところで。」
「ワタクシ達も補給に立ち寄ったのよ、この島に。そうしたらスモーカー君、麦わらを見つけたから捕縛に行くトコロなんだけど、たしぎが居ないからそっちも探さなくちゃならないって。で、麦わらは俺が追うから、オマエはウチの一隊を率いてたしぎを探せってね。」
「も、申し訳ありません… お手間を取らせてしまって…」
「いいのよ。たしぎ。あの男がワガママなのは今に始まったことではないし。それに、麦わらが居てあなたが居ないってコトは、またいつもの彼を追いかけてたんでしょ? だとしたら、もし途中で彼に鉢合わせでもすれば、彼らだけでは対処できないわ。だから、スモーカー君の判断は正しいのよ?」
「ハイ…」
「それより、足のケガは大丈夫?」
「え? あ、ハイ。もうだいぶ良くなりました。」
「ふぅん… なるほどね。」
「??」
「あの、ヒナ嬢? 何か?」
「なんでもないわ。さて、たしぎ? あなた歩けるかしら?」
「は、ハイッ!! 今度こそ大丈夫ですッ」
「…無理は良くないわね。軍曹、たしぎの刀と靴をワタクシに。」
「ハッ!」
「イエ、その、大丈夫ですから…」
「イイから、上官の言うことは聞きなさい。ほら、コレを羽織りなさい。」
「あ、有り難う御座います。」
「さあ、戻るわよ。早くおぶさりなさい。」
「そ、そんなことッ! 大丈夫ですよッ 一人で歩けますッ」
「早くなさいな。いい加減にしないと、怒るわよ。」
「あうぅ… では、お願いします…」
「ちゃんと捕まってなさいよ。」
「ハイ。」
「さてと、それじゃ、戻るわよ。軍曹、あなた達は先に行って、スモーカー君のお手伝いをしなさい。ワタクシ達は後から行くわ。」
「ハッ! 了解ですッ! ヨシッ、全員居るな。たしぎ曹長は無事見つかった。総員撤収ッ! 急ぎ戻って、大佐の討伐隊に合流するぞッ!」
「ハッ!!」
「では、ヒナ嬢、曹長をよろしくお願い致します。たしぎ曹長、お先に失礼します。 総員、出発ッ!!」
ダッダッダッダッ…
「じゃあ、ワタクシ達も行くわよ?」
「ハイ。」


「ところで、たしぎ?」
「ハ、ハイ?」
「足のケガ、治療した跡があるけど?」
「うッ… コ、コレは、その… /////
「薬なんか、よく持ってたわねぇ?」
「あ、あの、えと… //////
「そもそも、あなたが発見された状況って、どう見ても誰かに介抱してもらったって感じだったわよ?」
「… ///
「ひょっとして、誰かに診てもらったのかしら?」
「はぅ~~ //////
「さて、街まではまだまだあるわよ? きっちり報告してもらうわ。スモーカー君に説明するよりは気楽でしょ? 親切な上官で良かったわね。ヒナ親切。」
「うぅ、分かりましたぁ~… /////


…ガサガサガサ
「…イヤ、またって、なんだよ?…」
ガサガサガサガサ…


後書き