グランドラインを巡る旅。今回麦わらの一味が辿り着いた島はログが貯まるのに丸一週間かかるという。
そんな長丁場のログ待ちの間、普段は船で留守番をしていること(つーか、寝てるだけ)が多いゾロもなかなか島を出ないのが気になったのか、
「よぉ、ログが貯まるまで後どんだけかかるんだ?」
と訊けば
「なに言ってんのよ、まだ四日はかかるわよっ? …ったく、人の話くらいちゃんと聴いときなさいよ。」
と怒られてしまった。 それならばと云うことで三日目の昼過ぎになってやっと下船してはみたものの、特段用事がある訳でもなく、何となく酒場を目指して歩き始めるゾロであった。

酒場を目指して町中の大通りを歩いていると、小さな恋人達が各々ソフトクリームを手に、はしゃぎながら走っている。 よく通る元気なその声に目を向け、そのほのぼのとした様子に目を細めるゾロ。
「待ってよぉ、少しくらい頂戴よ~」
「追いついたらなぁッッ?!」
と、前を走っていた男の子がゾロのすぐ傍を走り抜けようとしたとき、振り向きざまに声を掛けようとして段差に足を取られる。そのまま後ろ向きに倒れようとするところを
「?! アブねっ!」
と、慌ててしゃがみながら体を入れ、左手で男の子を支えるゾロ。一応転倒を防ぐことは出来たが、その子の手を離れたソフトクリームは、助けたゾロのズボンに着弾する。ちなみに着弾点は、内股(かなり股間寄り)という微妙な位置である。
転びはしなかったものの何が起こったのか判断つかず、暫くはビックリした様子だったが、
「おい、大じょ…
うぶか?」と声を掛けようとしたところで、手に持っていたソフトクリームがダメになったことを認識すると途端に泣き出してしまった。助けたゾロの方も
…うぶ、じゃ、ねーか…」
と、自分の右腿と男の子を交互に見やりながら困った顔になる。
後を追いながらその様子を見ていた女の子は「腰に刀を差して怖そうな顔をしたオッサンの腕の中」に居る恋人をめがけて
「大丈夫?」
と、駆け寄るが、今度はその女の子までが…
「ひゃッッ?!」
…同じ段差に躓く。
「ッッ?!! うぉおっ??!」
と、男の子を左足に預け、上体をよじって右腕を目一杯伸ばし、右肘と右手で女の子の体とその手のソフトクリームを支えてやるゾロ。何とか女の子の転倒も防ぐことは出来たが、コーンから上のクリームは物理法則に従い地面に墜落した。 転倒を免れはしたが、驚きとパニックと目の前の恋人の号泣が伝搬してしまった女の子も結局泣き出してしまう。
左と右に泣きわめく二人の子供を抱え、さすがの「野獣」も所在なげに弱り果ててしまって、
(参ったなぁ… 替えを買ってやろうにもこの状態じゃ身動きもとれネェしよぉ…)
と、二人が泣きやむのを待つことに決めた。

なんとなく二人の頭を優しく撫でながら泣きやむのを待っていたところに、
「大丈夫ですか?」
と影が差す。
ゾロが見上げる間もなく、陰はそのまま子供達の目線に合わせるように両膝を地に着き、二人の手を優しく握りながらゆっくりとした口調で語りかける。
「ほーらぁ、泣かない泣かない。大丈夫ですよ~。二人とも新しいのを買ってあげますからネーッ
と、二人を落ち着かせるのは海軍曹長「たしぎ」であった。
その優しい声としっかりと握られた手のぬくもりにようやく落ち着いたのか、二人は程なく泣きやみ今度は元気にリクエストをしてくる。
「ホント?」
「ええ、もちろんですっ
「じゃ、ぼくバニラ。」
「わたしイチゴぉ。」
「バニラとイチゴですね。分かりました。じゃぁ、行きましょうっ」
あっけにとられていたゾロは自分の両手が引っ張られる感覚でハッと我に返る。
「おじちゃんも行こうよ。」
と、男の子が声を掛けると、
「ん? あ、ああ… あぁっ!? 俺もかぁ?」
何事かと戸惑うゾロ。すると今度は女の子の方が縋るような目で
「ダメ?」
と、問いかけてくる。こうなるともう二人に逆らえる訳もなく、
「んぁあ~… ああ、じゃぁ行くか。」
と、ニッと笑いながら同意する。 たしぎはそんな三人のやり取りをクスクスと笑いながら待ってた。その両手は当然のように子供達にしっかりと掴まれたまま。

たしぎを挟んで右に男の子、左に女の子と、仲良く手を繋ぎながら前をゆく三人を見やりつつ、
「…ったく、なんでこんなコトになってんだ?」
と、ぶつぶつ言いながら後に続くゾロ。しかし、その表情はどことなく嬉しそうで…
それから、店先では親子だの夫婦だのと誤解されながらも二人にソフトクリームを奢ってやった(もちろんたしぎ持ちで)。 別れ際、ゾロは男の子の方に
「意地悪しネェで、ちゃんと分けてやれよ?」
と諭せば
「うんっ」
と小気味良い返事。
「ありがとう、おじちゃん、おねぇちゃん♪」
「ダメだよ、こういう時はウソでも「おにぃちゃん」って言わなきゃ… おにぃちゃん、おねぇちゃん、ありがとう♪」
などと言いながら仲良く去っていく小さな恋人達。 「やれやれ」という顔で見送るゾロの横ではたしぎが微妙に震えている。
「フフフッ、「おじちゃん」ですって() カワイイなぁ
ゾロは普段から言われ慣れているのか別段気にした様子もなかったのだが、たしぎは「おじちゃん」と呼ばれたゾロがよっぽど可笑しかったのか、必死になって笑いをこらえていたようだ。ゾロは憮然とした表情になりながら
「…るせえよ。 …ソレより今日は良いのか? こっちは?」
と、三本の佩刀を叩きながら問いかける。
「えっ? あぁ…今日は、良いですよ。見逃してあげます
「あ゛? っんだよ、そりゃ??」
一瞬きょとんとしたたしぎだったが、今日はやたらと上機嫌な様子であっさりと引き下がってしまう。それどころか
「それより…」
とゾロの前に跪き、右内股に残っているクリームをハンドタオルで拭い始める始末。
「オッ、オイ、なにしてんだよっ!?」
「なにって、汚れてしまってますし、このままでは気持ち悪くなっちゃいますし。それにロロノアのことですから、どうせハンカチもなにも持ってないんでしょう?」
いきなりのコトに切羽詰まった声を上げているゾロに対し、暢気に応対しながらゴシゴシとズボンを拭いているたしぎ。
「い、いやっ、手拭いならあるからっ!()」
「ですが、その手拭いってこういう使い方はしないんでしょう?」
慌てながらも左上腕を叩いて説得を試みるゾロだったが、たしぎにあっさりと言い返され
「ううっ…」
と唸って固まってしまう。暫くは為すがままにさせていたが、「ハッ」と我に返り、
「いや、だからそういうこっちゃねーよっ!! こんな所で、んなことしてんじゃねーってってんだ!! 恥ずかしいだろがっ!!////
と改めて吠える。 その言葉に周囲の状況を見回したたしぎは、訝しげな目、好奇の目、見守るような目、揶揄するような目、等々、自分たちに注目が集まっているコトにようやく気づき
「あうっ!?//////
と一気に立ち上がる。当然その後頭部は強烈なアッパーカットとなり、お約束のようにゾロの顎をねらって襲いかかるが、何となく「ソレ」を読めていたゾロは軽くスウェーしつつその後頭部に左手を合わせ、「スパンッ」という小気味いい音とともにたしぎの頭を左手に収めてみたり。
「っぶネェな、その気はねぇみたいなコト言っといて、実は奇襲策を狙ってんのかよ?」
と、たしぎの頭をやや乱暴にクリクリと撫でつつニヤリと笑みを投げかける。後頭部を襲った軽い衝撃にボーッとしていたが、ややあってから「ハッ」と我に返り、
「そ、そんな、奇襲なんて卑怯なことはッ…」
と反論を試みるが、ゾロはナニが気に入ったのか、その間もクリグリとたしぎの頭を撫で続けている。
「あ、あの… 恥ずかしいんですけど…//
と、顔を赤くしながらたしぎは上目遣いにゾロを睨んでみる。と、今まであった手が離れ、
(えっ?)
という軽い喪失感を感ずると同時に「ポンッ」と優しい衝撃が頭部を走る。
「分かったかよ?」
と、ゾロの意地の悪い笑みを受け、からかわれたことに気付いたたしぎは、恥ずかしいやら腹が立つやらでよりいっそう顔を赤らめプイッとそっぽを向いてしまった。その様子を満足げに眺めたゾロは、ふと誘いを掛ける。
「で、どうするんだ? 俺ぁこれから呑みに行く途中なんだがよぉ… おめぇ、暇なんなら付き合うか?」
「えっ? ええっと、今は待機中なんでブラブラ散歩に出てきただけなんですけど、運良くロロノアを見つけて勝負を挑もうと思ったらあんなコトがあって…ですから今は暇といえば暇なんですが…って、ええっ!? わたしとですかぁっ!? わたし、海軍なんですよぉっ!??」
戸惑いつつも状況を説明してみて、肝心なところに思い当たって驚いているたしぎに対し、
「んなこと言ったって、今日は良いって言ったじゃねーかよ。それともありゃ、やっぱ油断させる手だってか?」
「そんなッ、わたしは嘘なんか吐き(つき)ませんよっ!!」
「だったら良いんじゃねーの、海賊も海軍も一時休業ってコトでよぉ?」
「や、ですから、今は待機任務中なんですよ?」
「なんだ? 呑んじゃダメってコトか? だったらメシでも良いぜ?」
「そーゆーコトでは、なく、ですねぇ…」
「あん?」
「…はうー、分かりました。じゃ、お相手しますよ… その代わりッ! ロロノアッ! あなたの奢りですからネッ!?」
てな感じで、ウマいこと誘いにのせてしまうゾロ。もちろん
「ん? あぁ、良いぜ。こっちが誘ったんだから呑み代くらい持つさ… けど良いのかねぇ? 海軍が海賊にたかったりしてよ?」
「んなっ!? 今更なに言ってるんですかっ!? あなたがどうしてもってしつこいからわざわざ相手しようって言ってるのにっ!?」
「クックックックッ…」
「むー?」
「ッたく、ホント、まじめなヤツだよ、テメーは() ちっとからかっただけだ、気にすんなッ」
てな感じで、更にからかって楽しむことも忘れずに。
またしても良いようにあしらわれていることに気付いたたしぎは
「んなっ!?////
と当然のように沸騰しかけるが、
「クックックッ… さぁ、行こうぜ、海軍さんよ?」
とか言いながら背中をバンバン叩いて先を促すゾロに有耶無耶にされてしまうのだった。

酒場では、さっきの小さな恋人達の様子や意外と子供に優しいゾロの振る舞い、酒場までの間に結局二度ほど転びそうになったり(その度にゾロが支えた())意外と上手に子供を宥め賺す(なだめすかす)たしぎの応対、などを肴に、穏やかに杯を重ねていった。
…何となく最初の出逢いと「アラバスタ事変」のことだけは避けながら…

そんなこんなで結局夜半まで杯を交わし、別れ際には明日の手合わせの約束まで交わしてしまう二人の剣士。

一人は、艦に帰投するまでの道すがら、
(やっぱりただの悪党ではないんですよね)
などと再確認しながら、久しぶりに待機任務中に呑んでしまったと云うだけではないような、何とも軽い足取りで道を辿る海軍剣士。

一人は、船に引き上げるまでの道すがら、
(やっぱりくいなとは別人だよな)
などと再確認しながら、久しぶりにイイ酒を呑めたと云うだけではないような、何とも嬉しげな足取りで歩を進める海賊剣士。

「たまには昼寝をサボるのも、良いモンだな♪」

「たまには息抜きの散歩も、良いものですね♪」

さてさて、この二人が昼間の小さな恋人達のような睦まじい仲になるのかどうか、ソレはまた別の機会に…


著者注:女の子の手に残ったコーン(とクリーム)は、店先でオロオロしているところをゾロが後ろから抜き取り、一口で胃の中に処分しました。

後書き