(えーと… どうして私はこんなところに立ってるんでしょうか?)
海軍曹長、たしぎは、いつの間にか衆目の中で壇上に立たされている状況に困惑していた。


「はぁッ!? ベルメール杯に出るんですか? わ、私が?」
いつもお世話になっている軍曹さん達に「たしぎ曹長に、是非お願いしたいことがあります」と言われれば断る理由もなく。せめてもの恩返し、と、喜んで請け負ったら、なんと「ベルメール杯」に出場して欲しいというハナシ。
「だ、ダメですよッ! そもそも私なんかじゃ予選オチに決まってますッ!」
「イヤ、そんなことありませんッ! 曹長なら優勝まちがいナシですよッ!」
「まさか! そんなことあり得ませんッ! それに、きっと、スモーカーさんがダメっておっしゃいますよ…」
「や、それは大丈夫ですッ! スモーカー大佐には既に了承頂いておりますのでッ!」
「エ?? エェーッ!? ホントですか!? スモーカーさんがッ!? そ、そんなぁ…」
(な、なんでですかぁ? スモーカーさん… 一体何を考えて…)
「…うー、分かりました。では少しだけ時間を下さい…」
「ええ、もちろんですッ! 宜しくお願いしますッ! もうエントリーはしてありますので、当日までゆっくりと備えて下さいッ!!」
「はぁ… へっ!? エ、エントリー済?? ちょ、ちょっ、待ってっ
「それではッ! お邪魔いたしましたッ!!」
バタンッ
て… えーと、つまり、決定事項って事でしょうか… ど、どうしよう…」
たしぎはこの手の事柄は全く無視していたので知らないようだが、今年は第十回の記念大会として優勝特典を「優勝者、所属隊、共に三つ」まで選択出来るというのが、もっぱらの噂だ。
いつもはたしぎの心情を察して無理にとは言わない軍曹達も、このあまりに魅力的すぎる特典には抗うことも出来なかったと言うことであろうか?…


「最優秀女性海兵選考大会」、通称「ベルメール杯」。
過去の大きな戦乱時に、自ら助け出した戦災孤児を養育するため除隊を申し出た女性士官に対し、それまでの功績を讃えて数々の褒章を以て送り出したという故事にちなみ、全ての女性海兵を対象に優秀な者を表彰しようという選考会である。
筆記試験や制服審査・戦闘技能審査などの数々の審査を経て、その年のもっとも優秀な女性海兵を選出するこの大会。優勝者に対しては「任地・任務の選択優遇」「有給休暇一ヶ月」「昇進試験時の優待措置」その他、から、どれか一つ、優勝者の属する隊に対しては「全員の有給休暇二週間」「最新鋭艦の優先的配備」「希望する装備の優先的調達」その他、から、どれか一つ、という、非常に魅力的な特典が用意されているため、海軍内の行事の中でも非常に関心が高い。
…もっとも、前線部隊には女性隊員がほとんど居ないことから、実際に優勝しているのはもっぱら後方部隊に属する若手の女性ばかりであり、その実態は「ミス海軍コンクール」といった趣となりつつある。(故に、なおさら関心も高まっているのだが…)
たしぎは、その大会の記念すべき第十回大会の最終選考の場に立っているのである。

「さあ、「最優秀女性海兵選考大会」の記念すべき第十回大会ッ!! 厳しい予選を勝ち抜いて決勝に残ったのはご覧の四人ですッ!!」
おおおぉ~~~~
司会の声にどよめく会場。
(ひゃッ… わ、私なんかが、こんなところに居ていいんでしょうか?)
「まずはッ! 長らくの沈黙を破り、今回が初出場なるも、真打ちにして大本命との呼び声も高い「黒檻のヒナ嬢」ッ!!」
うぉおおおおおぉぉおおぉ~~~~~~ッ!!!!
ヒナジョォ~~~~~~~ッ!!!!
ぅロックしてくれェェェ~~~~~~~~ッ!!
(うわッ、スゴい… やっぱりヒナさんって、人気あるんだなぁ…)
一人、二人と、決勝進出者の名前が読み上げられていく。
「そして最後の四人目は、こちらも初出場ながら一気に決勝まで勝ち上がってきた「たしぎ曹長」ッ!! なんと、ヒナ嬢の同期にして「黒檻」と並び称される「白猟」スモーカー大佐率いる部隊からエントリーですッ!!」
うらやましいぞ~~~ッ!! けむりやろ~~~~ッ!!!
そーちょー~~~~ッ!!!! しっかり~~~~ッ!!!
われわれがついてますよぉ~~~ッ!!!!
(あ、軍曹さん達だ… す、少しは落ち着けたかも…)
「では、いよいよ最終アピールの時間ですッ!! まずはヒナ嬢から、張り切ってお願いしますッ!!」
(うう… どど、どうしよう… 軍曹さん達は演武でも唄でもなんでも良いって言ってましたけど… ヒナさんは何をするんでしょうか?…)
(…えっ!! た、たったそれだけですかッ? で、でも、スゴい反応… ご自分のアピールの仕方を分かってるんですね… 流石ですぅ…)
(…あの方は唄ですか。 …スゴいッ!! もの凄くウマいですッ!! コレじゃ唄はダメですね…)
(…こちらの方は、どこかの民族舞踊のようですねぇ… はぁ、キレイな踊りですぅ…)
「素晴らしい舞でしたッ!! さあ、最後はッ!! たしぎ曹長ですッ!! どうぞッ!!」
(わ、私の番ですッ!! な、何をすれば… そ、そうだッ、わッ、わたッ
わたしはッ!! 唄ッも、ウマくはありませんしッ、踊りッ、なんてッ、全然ですしッ、魅せられるような演武もッ、出来ませんッ!」
「なのでッ、代わりにッ、ココでッ、宣言させて頂きますッ!!」
「わたしの夢はッ、悪党共の手に渡ってしまった名刀をッ、全て回収することですッ。そのためにはッ、もっともっとッ、強くッ、ならなくてはなりませんッ!!」
「なのでッ、わたしはッ、もっと強くなりますッ。そしてッ、世の全ての名刀をッ、必ずッ、悪党共の手からッ、在るべきところに戻してみせますッ!!!」
「以上ですッ!!!」
ガンバレェ~~~~ッ!! そーちょー~~~~ッ!!!!
われわれもきょうりょくしますよぉ~~~~~ッ!!!!
「有り難う御座いましたッ!! 最後に海軍らしい主張が飛び出しましたところで、いよいよ投票ですッ!!!!」
おおおぉ~~~~ッ!!
「この女性こそ、と云う候補者に挙手願いますッ!! 先ずは、ヒナ嬢ッ!!!!」
ぐぉおおおおおぉぉおおぉ~~~~~~ッ!!!!
「ハイ…ハイッ集計出ましたッ!! では続いて、ヨーコ二等兵ッ!!!!」
うぉおぉぉ~~~~~ッ!!!
「…ハイッ出ましたッ!! では次は、しのぶ衛生兵ッ!!!!」
うぉわぁああぁぁ~~~~~~~~~ッ!!!
「えぇ…ハイッ出ましたッ!! 最後は、たしぎ曹長ッ!!!!」
どぉあああああぁぁおおぉ~~~~~~ッ!!!!
「えぇ、え? …え、ハイッ出ましたッ!!!! なんと、今回はトップ得票が二名ですッ!!! 全くの同数になりましたッ!!!」
「一人目はッ!! 八千、飛んで六十二票で「ヒナ嬢」ッ!!!」
「二人目はッ!! 同じく八千、飛んで六十二票の「たしぎ曹長」ッ!!!」
(…マズいな、どうするか…)
「このような異例な事態は初めてですッ!! まさに記念大会にふさわしいッ!!」
「しかしッ!! 同時優勝はありませんッ!!!! 」
「そこでッ!! 司会者判断として、審査委員長に裁定願うこととしますッ!!!!」
「宜しいですねッ!!? ガープ審査委員長ッ!!!」
うおおおぉ~~~~……

「フム、…そうだな… ここはまあ、曹長ぢゃろう。」
…ッ
うぉあぅどぉああああぁぁおおぉ~~~~~~~ッ!!!!!!
そーちょー~~~~ッ!!!! ゆーしょーだぁ~~~~っ!!!
なんでヒナジョウじゃないんだぁ~~ッ!! ナニかんがえてんだぁじじ~~ッ!!!!
「決まりましたッ!! たしぎ曹長ですッ!!! 栄えある第十回大会、ベルメール杯はたしぎ曹長のもとにッ!!!!」
(…ふうッ、なんとかなったようだな…)
「…」
「たしぎ曹長ッ!! 今のお気持ちはッ!!?」
「…あ、はイッ!! え、アノ、ワ、わたッわたしですッか??」
「そうですッ、たしぎ曹長ッ!! あなたの優勝ですッ!! 改めまして、今のお気持ちはッ!?」
「…はあ… あのッ… 有り難う、御座いますッ…」
「おめでとうございますッ!! たしぎ曹長ッ!! さて、早速ですがどのような特典をお望みでしょうかッ!!??」
「え、えとっ、トクテン? ですか?」
「そうですッ!! 優勝者特典ですッ!! さあ、どのような特典をッ!!??」
「あぁ、特典ですね。えーと…」
(し、失敗しましたッ ナニも考えてませんでしたッ…)
「えーと… では、名刀回収を、正式に任務として頂く、とか… ダメ、ですよね…」
「えー… 大ッ丈夫ですッ! 審査委員長の方からOKが出ましたッ!! さあ、あと二つですッ!!」
「…はッ??… あと二つ?? って???」
「そうですッ!! 今回は第十回の記念大会ですので、要望を三つまで出せるのですッ!!」
「ですからッ!! たしぎ曹長ッ!! あと二つ要望を出せるのですよッ!!」
「…そ、そうだったんですか… どうしよう… あと二つ…」
「例えば、職務上お困りの事とかッ!!」
「任地に対して不満があるとかッ!!」
「長期休暇が欲しいとかッ!! 専用装備が欲しいとかッ!!」
「何かありませんかッ!!」
「あっ、それならッ!」
「オッ!? 何か思いつきましたかッ!?」
「はいッ!! えと、「麦わらの一味」、モンキー・D・ルフィとその一味の追跡を正式任務として頂きたいのですが… それと、併せて、「麦わらの一味」のロロノア・ゾロの捕縛占有権を頂きたいのですが…」
「なるほどッ… OKですッ!! こちらも審査委員長からOKが出ましたッ!!」
「例年になく海軍的な要望になりましたッ!! まとめますと、一つッ!」
「名刀回収を正式な任務とするッ!!」
「二つッ!」
「モンキー・D・ルフィ率いる「麦わら海賊団」の追跡を正式な任務とするッ!!」
「三つッ!」
「賞金首「ロロノア・ゾロ」捕縛について、海軍内における独占的権利を有するっ!!」
「と、云うことで、宜しいですねッ!!」
「あ、はいッ!! 有り難う御座いますッ!! コレでロロノアはわたしのモノですネッ!!」
「おぉーっとぉッ!? ロロノア・ゾロ、愛されておりますッ!!」
「…えッ!? いや、そういうことではッ!! ////
「良いオチがつきましたところでッ!! 第十回「最優秀女性海兵選考大会」を閉会いたしたいと思いますッ!!」
「あのッ!! ですから、そういう意味ではないんですッ!!! //////
「参加者の皆さんッ!! 会場の皆さんッ!! 有り難う御座いましたッ!!」
「ソレではまた来年ッ!! 第十一回大会でお会いしましょうッ!!!」
「で、ですからッ!! そのッ!!! … もうッ!! //////
たしぎそーちょ~~ッ!!!! ばんざーいッ!! ばんざーいッ!! …

「…あのバカ、ナニを口走ってやがんだ…」


「ところで中将。ご判断の決め手はどのようなことで?」
「んなモン、若い方が良いに決まっとろうが。」
「…はぁ…」


おまけ

後書き